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「あいつももう仕かたがないのですよ。『青ペン』通いばかりしているのですから。」
気の毒であるから、風呂はわかさなくともいいぜ、と高橋に云うが、彼も私を気の毒がっているらしく、たいておく。親切はありがたいが、気の毒がられるのも、つらい。思うように仕事ができないと、フロたきの人たちに悪いような気持になるので、かえって負担になることがあった。
と、急に練吉が小耳にはさんで云つたのは、多分黙つて他のことを考へていたのだらう。
だが、時には彼等の間にも、まるで一日中陽に温められて色づいた麦畑からそのまゝ入つて来たやうな男もあるのだつた。肥つて日焼けがして彼は自分から病気を診みてもらひに来たくせに、房一の呉れる薬を不審さうに眺めて、そんな病気のあることを信じないかのやうに頭を傾かしげて、それから大声で(それは麦畑の穂の列を吹き抜けて行く、乾いた快い風のやうな響きを帯びていた)彼の持牛についた虱しらみをとる薬はやはり人間にも同じ効きき目めがあるのかね、と訊いたりするのであつた。
房一は苦が笑ひをした。
「さつき、はじめは、はてな、見慣れない男がいるな、と思つたくらいですからな」
「先生、どうしなさる?着て行きますかい」
「をかしいから笑つたのだ」
「ほう、クレーといふのはカワラケのことかね」
「ウシ!ウシ!」
と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。
で、この二人の間に交されたとんちんかんな立話は終りを告げた。
「ジョン、降りろ」