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    「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」

    「神尾司令官閣下と同列なんだよ。宇品から東京駅着。それから直ちに参内上奏されたんだよ。どうも、すばらしいね。目に見えるやうだね」

    「それで、――どうかね?」

    「ほらね、かういふ形のと、又別にかういふのがあるだらう」

    「はあ」

    彼らは家の間まの一つを「商人宿」にしている。ここも按摩が住んでいるのである。この「宗さん」という按摩は浄瑠璃屋の常連の一人で、尺八も吹く。木地屋から聞こえて来る尺八は宗さんのひまでいる証拠である。

    「だいいち、あすこの小倉組の親方といふのがね、うちの店へもたまに買物に来るんだが、鬼倉といふ綽名がある位でね、見たところ痩せつぽちのさう強さうもない奴なんだけどね、すごいんださうだ。――こないだも郵便局で見た人があるんださうだが、配下の者が何かしつこく不服を云つたら、いきなりかう、二本の指でね――」

    ――房一がさういふことを耳にしたのはごく最近である。しかし、いづれにしても房一には直接関係のないことだつた。

    「さうですか。それは――」

    「なんだつて、脳溢血?――そいつあ大変だねえ」

    「どうもおれは、身近かな者だと平気で診られないんだね」

    「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」

    と気のない返事をした。

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